コレを売りたい! 南陀楼綾繁
1967年、島根県出雲市生。編集者・ライター。共著『ミニコミ魂』(晶文社)。本名(河上進)では、『季刊・本とコンピュータ』(トランスアート)を中心に仕事をしている。95年、ミニコミ『物数奇』を創刊。99年、その別冊として『日記日和』を発行した。現在、『日曜研究家』に「帝都逍遙蕩尽日録」、『文化通信』に「南陀楼綾繁のミニメディア・ウォッチ」を連載中。E-Mail:kawa-ssm@po.iijnet.or.jp

#011(2002.07.25)

 南陀楼です。こんにちは。自分で紹介した本を往来堂書店に置いてもらい、売れ残れば自分で買い取るという自縛的企画。前回(10回)ご紹介した、林哲夫『喫茶店の時代』(編集工房ノア)は11冊、書物同人誌「sumus」の8号は6冊売れたそうです。一店でコレだけ売れればまぁまぁですね。とくに『喫茶店の時代』は、往来堂ではいまでも、ほかのカフェ・喫茶関係の本と一緒に並べてくれてます。紹介しただけの効果はあったと云えるでしょう。

 成功に気をよくして、今回はちょっと冒険してみましょうか。定価1万2千円(本体)という高い本を一冊だけ仕入れてもらうコトにします。その本とは、『缶詰ラベル博物館』(東方出版)です。B4判という巨大なサイズで、図版はすべてカラーで収録されています。本を開くと、そこにはサケ、カニ、マグロ、貝、牛肉、ハム、みかん、パイナップル、ジャム、ぜんざいなど、さまざまな食物の缶詰ラベルが、コレでもかとばかりに並べられています。

 これらのラベルは、紙に印刷されて缶に貼り付けられたものです。最近では、缶に直接印刷されるようになって、ラベルとしてはなくなってしまいました。この本では、日本最初の缶詰ラベルである、明治10年のサケ(石狩川)をはじめとし、昭和40年代までの缶詰ラベル2331点を収録しています。

 たとえば、サケは全部で65点。サケのイラストがほとんどですが、会社によっては「キューピー」や「マダム」「ペンギン」などの商標が描かれています。サケそのものではなく、切り身が描かれてるのもあって、ピンクの切り身に英語で「Fancy Pink」などと書かれてるのがオカシイ。ほかの缶詰でも、「サンタクロース」「ほてい」「ハト」「芸者」「ベティさん」「ダルマ」など、じつにさまざまな商標があって楽しいです。現存する「はごろもフーズ」だって、もともと羽衣をまとった天女が描かれてるんですからね。

 序文には、「当然のことだが、缶詰は開封しなければ中身が見られない。使用経験からくる缶詰そのものへの信頼、ブランドへの信頼が消費者に缶詰を購入させているとも言える。このような製品であるが故に缶容器そのものは非常に重要な商品の顔となる。この顔をどのように表現するかで、消費者の購買を動機付ける力の強弱差が出てくる」とあります。外側から判らない商品だから、ラベル自体をインパクトのあるものにし、客を惹きつける必要があったのです。

 「缶詰のラベルがたくさん入っていることは判った。でも、1万2千円はなぁ」という声が聞こえます。そこで、もう一押し。この本は、巷によく出回っている凡百のコレクション本とは一味違うのです。切手、絵葉書、マッチラベル、フライヤー、チラシ、ポスターなどの紙モノの図版を集めた本はたくさん出ていますが、そのホトンドは、その道のコレクターによる蒐集物がもとになっています。そういう本には、コレクター一人一人の集め方やそのヒトのライフスタイルが反映されて、オモシロいのですが、あくまでも個人のコレクションなので、案外重要なモノを見落としていたり、ものすごく細かいトコロに入り込んでいることが多かったりします。

 この『缶詰ラベル博物館』のスゴイところは、そういう個人コレクターではなく、れっきとした業界団体である「社団法人 日本缶詰協会」が集めたコレクションがもとになっている点です。製造業においては、関連資料を多く持っているのは業界団体に決まってます。モンダイはほとんどの団体が自分たちの歴史にあまり興味がなく、それを後世に残していこうという気も持たないことです。ところが、日本缶詰協会には、よっぽど熱心な探究家がいるらしく、すでに1987年にはラベルや新聞広告、工場の写真などを満載した『目で見る日本缶詰史』というスバラシイ本を出しているし、サイト(http://www.jca-can.or.jp/)もきわめて情報性豊かなつくりになっています。そういう団体の監修による本だからこそ、デザイン違いも含め全部のラベルを載せ、巻末には一枚一枚のデータ(会社や年度、サイズなど)を掲載するところまで行けたのです。

 おそらくこの先、缶詰ラベルに関する本が何冊出ようとも(出ないだろうけど)、この本に優る本は生まれないでしょう。だから、この『缶詰ラベル博物館』を買っておけば、あなたは日本の缶詰ラベルの権威となれるのです(え? なりたくない?)。つまり、一生もの、一世紀ものの「家宝」です。1万2千円なんて、安いと思いませんか?

 

 それでもまだ迷っているあなたに。新刊書店では、こういう高価な本を複数入荷できない場合、パッケージをはがして中身を見せると、破られたり汚されたりするのではないかと恐れて、パックのまま棚に並べるコトがよくあります。今回の企画でも、一気に二冊入れるのはリスクがともなうので(サスガのぼくも二冊は買えないです)、一冊だけ置くことにしました。その際、パックをはずさずに中身を確認できる方法として、本文の数ページをカラーコピーして見られるようにしておきます(もちろん、版元に許可を取った上ですが)。さらに、「どうしても中身が見たい」という方は、レジに云ってくだされば、中身をお見せできます。ナニしろ、1万2千円で「家宝」を買うのです。たっぷり時間と手間をかけて、検討してくださいね。ついでに云うと、往来堂書店ではクレジットカードも使えますので、衝動買いも可能です。と、誘惑しておいて、今回は終わりです。

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